キララタケ近縁種


2003年11月16日、秋ケ瀬公園(さいたま市)で
少なくとも関東平野では大変ありふれたきのこである。キララタケ(コプリヌス・ミカケウス)に酷似するが、肉眼的には、成長段階のすべてにおいて柄に細粒をまとわない点、顕微鏡的には柄に剛毛を欠く点が引っ掛かる。キララタケの柄に関して、スイス菌類図鑑(Fungi of Switzerland)では"the whole length covered with fine white powder(全長にわたってきれいな白い粉で覆われている)"と説明されている。また、ネット上のきのこ関連サイトでは"shining granules on stipe surface(柄には輝く白い細粒)"、あるいは"with fine granules(きれいな細粒をおびる)"といった記述がみられる。また、はじめは細粒をおびるが、のちには平滑と書かれることもあり、当然これは納得できる。しかし、図鑑によってはたんに"smooth(平滑)"としか書いていないものもある(例えば、David Aroraの"Mushrooms Demystified")。一方、日本の図鑑、保育社『原色日本新菌類図鑑』では柄の表面についての記述はなく、『北陸のきのこ図鑑』では「表面白色平滑」とあり、そのイラストを見てもいかにも柄がスベスベな感じである。ちなみに原記載は、フランスの学者ブリアードによるAgarics micaceusの記載(1785年)がそれに当たるようだが、フランス語なのでよく分からない。が、分からないなりに読んでみると、傘表面については、「砕かれたガラスの輝きにも似た、あるいは雲母を細かいパウダーにしたような」れいの細粒を特徴としてあげているみたいである。だが、柄については表面の特徴にふれていないようである。
「みたいである」とか「ようである」とか判読の自信のなさを露呈せざるをえないのが哀しいところであるが、それはさておき、果たして、柄に細粒をまとうと書かれたきのこと、柄が平滑であると書かれたきのこは本当に同じ種なのだろうか。問題はそこである。

私は当初、キララタケなら、少なくともフレッシュな状態では、細かいキラキラ粒を柄にもまとっているはずである、と思い込んでいた。そのほうが名にふさわしいから、という浅はかな理由だが、短い和名だけで種の特徴を十二分に表現できるはずもないわけで、「傘にキラキラ粒があれば十分なんじゃない?」と言われれば、「おっしゃる通りです!」としか言いようがない。
で、このきのこの柄にはそのキラキラ粒がまったくない。きのこは倒木上やその地面際など他にもたくさん出ていたのだが、根元の粗毛を除いては、どの個体の柄も平滑で、すべすべしている。
これは疑わしい、と感じた。幼菌の傘形状も微妙に違うように思えた。まず傘の縁の不揃いさ加減が気になった。上の写真をよく見てもらえば分かるように、柄の淡褐色の部分と傘の表皮とは、最初は一枚の皮だったことがうかがえる。で、柄が伸び始めて皮が二つに切れるまでの間、裾が下方に引っ張られて不揃いになるようである。縦皺はたぶん、まだ切れない皮に引っ張られながら傘が成長を始めてしまうことから生じるのだろう。
問題はその不揃いさ加減だ。キララタケの傘の裾はこんなにも不揃いになるものだろうか。また、縦皺がこんなにも顕著になるものだろうか。それまでキララタケというものをちゃんと観察したことがなかったから定かでないのだが、「なんか変だなぁ」と思えたのである。
傘のフォルムにも違和感を覚えた。写真のきのこの傘はお寺の境内にあるような釣鐘形だが、キララタケの幼菌ならもっと丸みがあって、むしろ卵形に近いのではないだろうか。色もキララタケのほうが黄色っぽいような印象がある。自分のホームページに載せているキララタケと比べてみると、かなり印象が違う。あるいは、生育時の気象条件等で変わることなのか。
上の写真を撮った日から溶解するまでの5日間、そんなことを思いながら毎日このきのこを観察したのだが、「どうも違うんじゃないか」という思いはますます強くなっていった。

検鏡して最初にわかったことは、キララタケなら存在するはずの柄の剛毛(seta)が見られないということであった。
ただ、困ったことに青木図版のキララタケの項には、「柄のシスチジアをなす繊毛は非常に少ない」と書いてあるのだ。この点がじつに気になった。
検鏡の達人である青木実が探して非常に少ないようでは、ヘボの私が探して簡単に見つかるわけがない。そう思って、去年(2003)の11月と今年(2004)の5月、幼菌から老菌まで、柄の頂部から基部に至るまで、執念深く探してみた。しかしながら、はっきりそれとわかる剛毛はついに1本も見つからなかった。
ところが、である。今年の春、千葉県立中央博物館からキララタケの乾燥標本を数本もらってきたのだが、吹春俊光氏が筑波山で採取したというその標本からは、いともあっさりと柄の剛毛が見つかってしまったのである。
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