アカモミタケ
Lactarius laeticolorus (Imai) Imaz.


2001.10.19 山梨県丹波山村で

秋、モミの樹下に出る赤っぽいきのこ。モミの大木よりも若い木のほうがたくさん出る。
食べるぶんには一口サイズくらいの幼菌のほうがおいしいが、モミの落ち葉をかぶって柄も見えないことが多く、なかなか絵になりにくい。この日撮ったのは上の写真のような老菌だけ、食用にと採取したのは傘の縁が内側に巻いた小さめの幼菌だけである。味はマイルドで、ベニタケ科のなかではおいしいきのこといえる。
橙色の乳液を分泌するのでチチタケ属に分類されている。

余談ながら、保育社「原色日本新菌類図鑑」には、「ヨーロッパのL.salmonicolor Heim & Leclairはアカモミタケにもっとも近く、今後両者の異同を検討する必要がある」と記されている。手持ちのフランスの図鑑「LES CHAMPIGNONS DE FRANCE」を開くと、L.salmonicolorが載っていた。色や形はそっくりで、モミ属の下に出る、橙色の乳液を出す、といった点など、発生環境や特徴が共通する。味についてはamarescente(苦い)との記述があり、同書の英訳版である「MUSHROOMS & TOADTOOLS」ではsomewhat bitter(いくぶん苦い)となっている。私は加熱調理したものしか味見したことがなく、苦みは感じなかったのだが、アカモミタケを食べて苦かったという話を聞いたこともあるので、生では多少苦いのかもしれない。
手持ちの洋書の図鑑にはアカモミタケ(L.laeticolorus)が見あたらないのだが、L.salmonicolorのほうはドイツの「1200PILZE」にも載っていた。この図鑑の写真を見るとまったくアカモミタケそのもので、傘には、保育社の図鑑に記されている「やや濃色の不明瞭な環紋」が認められるし、柄には「大小のクレーター状の浅いくぼみ」もある。ただし、味についての記述はない。
「The Great Encyclopedia of Mushrooms」という図鑑にもL.salmonicolorは載っている。この本は、食不食にこだわった一般向け(つまりは主にキノコ狩り用途)の図鑑で、ドイツで出版されたものの英語版である。この一般書ではL.salmonicolorに対する食味の評価は極めて低く、not inedible and is sometimes eaten(食えないことはなく、ときには食される)とかnot worth eating(食う価値はない)といったものである。
なお、「The Great Encyclopedia of Mushrooms」には、やはりアカモミタケによく似たLactarius deliciosusというきのこが紹介されている。その名のとおりとてもおいしいきのこらしい。L.deliciosusは「Musurooms of Northeast North America」という図鑑にも紹介されているが、こちらの写真でもやはりアカモミタケにそっくりである。アカモミタケとの大きな違いは、橙色の乳液が緑色に変色する点だ。アカモミタケの乳液には変色性はない。また、寄主も異なり、アカモミタケがモミの樹下に出るのに対し、L.deliciosusはマツの樹下に出るという。しかし、もちろんアカハツとは別物だ。アカハツはアカハツで、世界には紛らわしい種があるようだが、そこら辺の話は省略する。
似たきのこでもいろいろあるもんだなぁ、と改めて感じ入った次第。(記・2001.11.01)
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