ツガタケ Cortinarius claricolor Fr. (注1)

 〔蓋〕径4−7cm、初め半球状、成長するに伴い饅頭形となり、更に扁平に開くも、周辺は丸く下方に湾曲している。極初めは綿毛様菌糸を薄く被るも、速やかに消失して僅かに周縁部に於いてのみ残存する。従って蓋の表面は平滑となるも、成長後は表皮に亀裂を生じて、密着せる鱗被を有するに至る。稍々光沢のある暗黄褐色で、中央部は栗褐色である。蓋膜は白色で蜘蛛網様、蓋の開いた後は切れて、僅かに蓋縁に付着せるものと、茎の上部に綿毛様の鍔となって残存し、遂には其存在が不明瞭となる。肉質で肉は白くして厚く締まっている。
 〔茎〕長さ6−9cm、太さ径1.5−2cm。下端部は膨れて横径2.5−3cmに達する。白色、綿毛状なる鍔のある処より上の部分は裸出性で帯粉状の観がある。下の部分は黄褐色の繊維を被り多少鱗被をも有する。内部は充実し、肉白くして硬く締まっている。
 〔ひだ〕初め汚白色で後に粘土色となる。茎に対し稍々直生せるもの、略々離生せるもの、又準離生をなせるもの等種々で、甚だ変化に富み、幅6−8mm、密生している。 (注2)
 〔胞子〕褐色、梨種子形、大さ9−10×5−6μ、表面には細点状の疣粒があって粗造。
 夏秋季に主に針葉樹林に生じ、稀にはブナ樹の許にも生ずる。本邦の他、欧州及び北米に産する食用菌である。
 富士山では中腹栂林中に多く生じ、山麓須走村等では昔から富士山二合目にある栂の純林に生ずる本菌並びにオオツガタケ Cortinarius turmalis を採って食用にしている。本菌は古来ツガタケの名の他に、オオツガタケに対してホンツガタケとも呼ばれている。
 学名の claricolor は、clarus(輝く)・color(色)の2語より成る。

第510図 ツガタケ
 本図の標本は、明治44年夏、富士山須走村に滞在して毎日富士山中腹の菌類採集に従事し居たる際、8月25日、須走2合目登山道より横に栂の純林に入りたる処で採りしものである。其前後にも多数に採集せしことあり、同地方の人は季節物の食用品としている。本図に描けるものは、未だ充分成長し居ざる食用には最適のものであるが、老成せるものは蓋はこれよりも大きく開いている。数個の個体を描き本菌各個体に共通せる特徴を示す。

(注1) Cortinarius claricolor という学名は、現在流布している国内図鑑では Cortinarius claricolor var.turmalis としてオオツガタケにあてられており、Cortinarius claricolor var.claricolor としてツガタケにあてられている。しかし、この図鑑の絵と記述が指し示すツガタケの学名としては Cortinarius saginus が妥当と考えられる。
(注2) 川村は「ひだ」の意味で という漢字を使っているのだが、パソコンでこの文字が出力できないため、平仮名で「ひだ」とした。なお、上記引用では、旧字・旧仮名を新字・新仮名にあらためた。