オオカシワギタケ Cortinarius saginus Fr. (注1)

 フジイロタケ Cortinarius largus と共に本菌属中、形最も大なるもので、特に本菌は肉が肥大せること於いて顕著である。
 〔蓋〕径10−13cm、淡黄色なる地色の上に放射状に密着せる黄褐色なる繊維状菌糸を被れるも手触りは平滑である。潤えるときは粘性強く、乾けるものには落葉を付着している。初め半球状なるも、成長後は扁平となり、中央は僅かに高まり或いは少しく陥没している。周辺は不規則に波状を呈する。
 〔茎〕円柱状で上端は少しく太くなり、基部は球状に膨大している、長さ7−10cm、太さ径2.5−3cm、基部の球状なる部分は径往々4cm以上に達するものがある。淡黄色、上部は裸出状なるも、鍔の痕跡ある処より下部は黄褐色なる繊維状菌糸が密着している。茎の色は蓋に対して淡色である。綿毛状なる鍔の痕跡は、本菌に於いては同属の他の多くの菌に対して不明瞭であって、落下せる有色の胞子が粘着せることに依って、僅かに其存在を認むる程度のものである。
 〔ひだ〕最初は汚白色で、後に胞子が成熟するに及んで肉桂色なる褐色となる。やや疎生し、厚くして幅広く、広き所は8−10mmなるも、両端は細まっている。縁端線は多少波状を呈している。茎の上端部は稍々広がって蓋肉に接続していることと、ひだの茎に接する部分が次第に幅狭くなっていることの為、本菌のひだは茎に対して垂生の観を呈せるものが多いが、数個の個体に就いて能く観ると、矢張本属の他の諸菌と同様に、ひだは茎の接着点に湾生の状を示して離生又は稍々直生せるものがあるので、元来同じ性質のものであることが判る。
 〔肉〕蓋・茎を通じて甚だ肉に富み、蓋は厚く茎は太い。軟肉質なれども緻密で、茎にも髄質を有せず常に充実している。蓋及び茎の表皮下が稍々淡黄色を帯びているだけで総体に白色である。
 〔胞子〕淡黄褐色、広楕円形で両端稍々尖り偏桃形を呈し、細疣を被る。其大さ私の測った処では10−12×5.5−6μmであった。
 秋季主に山林樅林に生ずる。外国では英国に稀に産する。
 本属の菌中、形巨大にして肉厚く、総体黄色である為に、直に識別し得るものである。

第506図 オオカシワギタケ
 本菌の標本は、昭和16年10月1日、常陸国筑波山の中腹樅林に採りしものである。1個の老成せるものに就いて外観図及び縦断面図を示す。

(注1) 川村があてた学名は、必ずしも現在の学名と合致しない。オオカシワギタケと名付けられたこのこの大型のフウセンタケは、球根状の柄の基部を見ただけでも Cortinarius saginus (柄の基部は棍棒状)ではないことが明らかだ。また、胞子サイズも合致しない。Fungi of Switzerland Vol.3 や The Phlegmacium Website に掲載のC. saginusとは明らかに別種である。
ちなみに川村の名付けたフウセンタケ属のきのこの中には「○○カシワギタケ」というネーミングがいくつかある。川村によれば「此属の菌は多くナラ・クヌギ等が多い林中に生ずる故、長野県の北部では、総称してカシワギタケと呼んでいる」とのこと。つまり、オオカシワギタケというのは文字通り「大きなフウセンタケ」という意味である。