アメリカウラベニイロガワリ
Boletus subvelutipes Peck


2001.07.07 群馬県嬬恋村で

主として保育社の「原色日本新菌類図鑑」の記述をもとに同定したので、まず、その主要部分を引用しておこう。
「傘は径5〜13.5センチ、まんじゅう形。表面は初め微毛を密生し、ビロード状のち無毛平滑。湿ると多少粘性をおびる。色は変化に富み、褐色、帯赤褐色、帯黄褐色、または暗褐色で、強くこすると暗青色に変わる。肉は黄色、空気に触れるとすぐに濃い青色に変わる。管孔は上生〜離生し、黄色のち帯緑黄色。孔口は血紅〜帯褐赤色(傘縁では淡色)、小型。管孔および孔口は傷つくと暗青色に変わる。柄は5〜14 × 1〜2センチ、上方に向かってやや細まるかほぼ同幅、基部は黄色の菌糸におおわれる。表面は黄色の地に暗赤〜帯褐赤色の細点を密布し、ときに頂部に細かい網目模様を表す。傷つくと暗青色に変わり、その部分はのちに黒ずむ。胞子紋はオリーブ色。胞子は11〜12.5 × 4〜5µm、類紡錘形、縁シスチジアは25〜45 × 5〜12.5µm。夏〜秋、ブナ林、ミズナラ林、コナラ・クリ林、シイ・カシ林などの広葉樹林内地上に群生する。分布:日本(本州〜九州)・北アメリカ(東部)。」
この記述でとくに同定のポイントと思えたのは、「基部は黄色の菌糸におおわれる。表面は黄色の地に暗赤〜帯褐赤色の細点を密布し」と記された柄の特徴である。ただし、「ときに頂部に細かい網目模様を表す」という記述は無視して差し支えなさそうだ。今年(2001年)刊行された家の光協会の「きのこ図鑑」にも「通常網状紋は認められない」とある。柄の頂部に網目模様を表すのは近縁種であるウラベニイロガワリ(Boletus luridus Schaeff.)の特徴であって、オオウラベニイロガワリ(Boletus luridiformis Rostk.)やアメリカウラベニイロガワリ(Boletus subvelutipes Peck)と区別するための目安にもなっている。ちなみに、北アメリカ産のイグチを集めた図鑑「North American Boletus」では、アメリカウラベニイロガワリについては"not reticulate"(網目はない)と明記されている。
また、同書にはアメリカウラベニイロガワリの柄の特徴として、"often with short, stiff, dark red hairs at the base on mature specimens (immature specimens may have yellow hairs at the base that become dark red in age) "と記されている。訳すと、「成熟した個体では、しばしば基部に、短くゴワゴワした暗赤色の毛を持つ(未成熟な個体では基部に黄色い毛を持つことがあるが、成熟すると暗赤色になる)」。
できることなら成長の様子を観察し、基部の黄色の毛が赤くなるのを確認したいところだが、地元の川口や浦和では見たことがないのでなかなか難しい。富士山では若いうちから基部の赤い個体も見ているので、赤い・黄色いは、成熟・未成熟とは無関係なようにも思える。いつか機会があって気が向けば、そこらへんを調べてみようかとも思うが、きっと来年は別のきのこに関心が向いていて、そんな気にはならないかもしれない。(記・2001.10.03)
〔備考〕 アメリカウラベニイロガワリという和名の命名者は本郷次雄博士である。ヨーロッパで古くから知られるオオウラベニイロガワリ B.luridiformis(synonyms:B.erythropus)に対して、それとよく似たアメリカ産の別種という意味から名づけられたものらしい。
本郷博士が命名にあたって影響を受けたのは、ロルフ・シンガー(1906-1994)という菌学者の見解である。シンガーは、欧米で活躍したドイツ生まれの研究者で、日本のきのこ分類に最も影響を及ぼした人物として知られる。ある時シンガーは、北アメリカでオオウラベニイロガワリの標本を集めさせたが、北アメリカ産のそれはヨーロッパ産のものとは異なる種と判断し、B.subvelutipesであると同定した。両者のもっとも大きな違いは、柄の基部の赤い毛の有無であったという。
その後、北アメリカにはオオウラベニイロガワリも存在する(というか、北アメリカ西部にはオオウラベニイロガワリだけがあって、アメリカウラベニイロガワリのほうが存在しない地域もある)ことがわかったが、シンガーの説にちなみ、B.subvelutipesの和名には「アメリカ」が冠せられることになった。
なお、この話は、アメリカのWEBサイトにあった記述を自分なりに解釈したものなので、多少の勘違いはあると思う。
知人からの又聞きだが、日本でふつうに見られるのはアメリカウラベニイロガワリがほとんど、ということである。

            Other photos


Home   和名索引   学名索引