ウラベニホテイシメジ
Entoloma sarcopus
Syn. Rhodophyllus crassipes


通称イッポン(98.09.23 奥多摩で)

ちょっと昔の話である。ウラベニホテイシメジを初めて見たのは、勝浦(千葉県)の朝市であった。おばあちゃんたちが小さな露店を開く朝市では、房総の海で採れた魚介類はもちろん、畑の野菜や野草・山菜、そして季節によっては野生キノコも並ぶ。「もう今年はキノコは終わりだよ」と言っていたのを覚えているから、たぶん10月の中旬か下旬ではなかったかと思う。ウラベニのほかにはヌメリササタケと、他のフウセンタケ科のキノコが1種類あったように記憶している。当時はまだキノコを始めたばかりで、ほとんど名前を知らなかった。
勝浦に行ったのは、武道大学というところに用があったからで、民宿に1泊しての取材だった。
朝市でウラベニを見た日、私は半日も大学のキャンパスにいた。その間に1時間ほど空きができたので、裏山に入ってみることにした。グラウンドの脇から道がついていた。しかし、道とはいっても獣道に毛の生えたようなもろい道で、崩れているところがあり、そこは斜面を巻いていくしかなかった。15分ほど歩くと、お目当てのものが見つかった。朝市で見たのと同じウラベニである。私は欣喜雀躍し、3本ほどをハンカチで包み、山を下りることにした。というのも、急に暗雲が垂れ込み、いまにも雷雨が来そうだったからだ。
が、手遅れであった。下り始めて5分もしないうちに激しい雨になった。道はみるみるとぬかるみに変わっていった。そして、案の定、私は滑って転んだ。ウラベニは地面に叩きつけられ、柄が折れて、傘は割れた。しかし、まともなのが1本だけ残り、守るようにして持ち帰った。後にも先にも、あの1本ほど大事に思えたキノコはない。

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