シモコシ
Tricholoma auratum (Fr.) Gill.


砂まみれのシモコシ(98.12.08 九十九里浜)

郷に入ってはの譬えにならい、キノコ採りに行った時は地元の呼称に従うことにしています。例えば北関東でウラベニホテイシメジならイッポン、福島や栃木でシャカシメジならセンボンというぐあいです。そのほうが地元の人から情報を仕入れやすいし、俗称のほうが正式和名より特徴をよく表していることも多いような気がします。キンタケはシモコシのことで、九十九里浜の辺りでそう呼ばれています。茨城の大竹海岸辺りではキシメジと言っているようですが、私はキンタケという名前が好きです。見つけた時のありがたみがシモコシやキシメジより上という感じがするからです。なんてったって「金」ですから「金」。
さて、キンタケは今年初めて食べた大変おいしいキノコのひとつですが、最初のうちは場所を教わってもなかなか採れませんでした。採れない理由のひとつは、まず絶対数が少ないこと、そしてほとんどの場合松葉に埋もれて見えないからです。 11月に入って最初に九十九里浜へ行った時は600円で買ったプラスチックの熊手を持って行きました。これで松葉を掻いて探すわけですが、海岸はほとんど掻き尽くされていて、人が掻き寄せて積もり積もった松葉をエイヤコラとどかす作業になります。同じ場所に新たに出てくるやつを探すわけです。しかし、私の熊手は柄が短い上に先の扇の部分が広めで、とても使いにくいものでした。小指の先っぽより小さいのをいくつか見つけただけで、その日は収穫なし。
帰りに地元のホームセンターで、もっと柄が長く先の細い熊手を買いました。1080 円でした。 数日後、新しい熊手で再挑戦。やっと7本だけまともなのを採ることができましたが、手にマメができてしまいました。ちなみに私の5倍くらい採っていた地元のおばあさんの持っていた道具は普通のキノコ鎌でした。「すごいね」と誉めると、いっしょに来ていたおばさんが「だって、この人は名人だもの。あたしなんか1本も採れないよ。7本も採れればいいじゃないの」と慰めてくれました。
しかし・・私は欲張りなのでしょうか。どうも7本では気がおさまらず翌週再挑戦。そして先日とは別のおばあさんに出会いました。海岸のキノコ採りは熟年の女性が多いようです。ビニール袋にはキンタケが5〜6本。聞くとまだ来たばかりということで、私と競争になりました。私もすぐに2〜3個発見。「ありゃ、もう見っかったのかい」とおばあさんはちょっと感心した様子。「目標20本ですから」「大丈夫だよ。採れるよ」と励ましてくれます。
1時間ほどで10数個になり、おばあさんに自慢げに見せてやりました。「あら、ずいぶん採ったねぇ。私はこんだけだけど」と言いつつ開けた袋の中を見てショック。なんと私の2倍くらいの量。くやしい。
「やっぱり年季が入っていると違うねぇ」と私。「年季じゃないよ運だよ運」「僕は気が短いから、こういうのは苦手なんだよなぁ」と負け惜しみを言うと、おばあさんも「あたしも気が短いけどね」とさり気なく対抗姿勢をちらつかせます。
「しかし、熊手じゃずいぶんこわい(疲れる)だろ」
見るとおばあさんのは熊手のようで熊手じゃない。歯が2本しか付いてないのです。聞けば息子さんに作ってもらったスペシャルツールということでしたが、同じようなものが農協かどこかで入手できるという話でした。この日、私の手はマメのつぶれた上にまたマメができて、ジムニーの窓の開け閉め(手動なのです)が痛かったほど。来年は自分も道具に凝るぞと誓ったのでした。

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