サクラシメジ
Hygrophorus russula (Schaeff.:Fr.) Quel.


99.09.15 福島県南郷村で

この日は、舘岩村の湯ノ花温泉の民宿に泊まった。朝から雨だったので、きのこ探しは昼で切り上げた。午後1時頃に着いてしまった民宿は、茅葺きの曲屋(まがりや)風の古い民家だった。そこから橋を渡ったところにある共同湯で汗を流してから、酒を飲みながら図鑑を広げた。分からないきのこの同定作業である。イグチをナイフで切って変色の具合を見たり、匂いを嗅いだり、かじって味をみたりしているうちに眠くなってきた。未明の4時に家を出たので寝不足である。増水した渓流の音も子守歌みたいに気持ちいい。ときどき遠くで鳴る雷鳴も聞こえたが、窓は開け放していた。部屋は2階で、窓の上には深い庇が1メートルほども突き出している。だから雨が吹き込まないのだ。昔の民家はよくできているな、と思った。しかし、考えてみれば庇のぶんだけ敷地が余計に要るわけで、都会では難しいだろう。そんなことを思いめぐらしながら、布団を敷いて寝てしまった。
枕元の電話が鳴って起こされた。もう6時を過ぎていた。晩飯の時間である。階下の広間に下りていくと、客は私一人で、大きな座卓にこぢんまりとおかずが並んでいる。イワナの刺身、イワナの唐揚げのあんかけ、揚げた蕎麦がきのあんかけ、うまそうな胡瓜の漬け物、それと鍋。固形燃料でコトコト煮る小さな鍋には、マイタケとサクラシメジが入っていた。
鍋が煮えた時には他のおかず全部と、ご飯も平らげていたので、もうあまり食欲がなかった。それでサクラシメジは残してしまったのだが、じつはもともとあまり好きなきのこではない。
翌日、マイタケ採りを案内してもらったころさんに「サクラシメジって、あまりうまくないと思うけど」と言ってみた。毎年9月中旬には、きのこ狩りの人々がサクラシメジを大量に採っていく。それが不思議だったのである。あんなに採ってどうするんだろう?
すると、ころさんは、「サクラシメジのいいところは、料理してもボリュームが減らないってことだね」と言う。
ナルホドナルホド。たしかに食べごたえはありそうだ。この時期にサクラシメジと並んで人気のあるウラベニホテイシメジだと、煮たり炒めたりすると水分が抜けて、だいぶ嵩が減ってしまう。その点、サクラシメジは小さくならないし、煮ても炒めてもしっかり形が残るので、いろんな料理に使えそうである。ということは、なかなか重宝な食材なのだ。
宿の朝食は炊き込みご飯であった。マイタケが入っていたが、かすかにサクラシメジの香りがした。この匂いも慣れると好きになるのかもしれないと思った。

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