オニフスベ
Lanopila nipponica (Kawam.) Y.Kobayashi


98.08.01 秋ケ瀬公園(浦和市)で

3年ぶりでオニフスベを試食した。径十五センチほどの幼菌である。下部の虫の入った部分を切り捨て、包丁で皮を剥く。リンゴを剥くのとは違って、包丁を当てて引っ張るだけで厚さ一ミリほどの外皮がすーっと剥ける。真っ白なケーキのようだ。これを厚さ一センチほどにスライスする。その感触もスポンジケーキを切る時に似ている。
まず、生でかじってみた。ごくありふれた菌臭なのだが、マツタケの香りと反対で、決して好ましい匂いではない。くせの強い生木をかじっているような味がする。以前に試食した時は、紙のような繊維質が歯に残ったのだが、こんどのはきのこが若いせいか、すっと喉に落ちる。ただ、生木のような味とともに歯とその周辺に残ったわずかな残滓がけっこう気になる。味が口の中に滞留するのである。
次にオーブンで焼いてみた。焼くと少し茶色っぽくなる。醤油をかけて口に入れた。あの菌臭はそのままで、舌触りも生の時と大差ない。はっきり言ってまずい。次にフライパンに油をしいて炒めてみた。やや焦げ目を付けてから口に運ぶと、これまた生で食った時と大差ない。焼いても炒めても、菌臭が消えないのである。
つぎに賽の目に切って味噌汁に入れてみた。豆腐と違って汁の上でプカプカ浮いている。十分熱が通った頃合いをみて碗によそり、口に入れる。やはりまずい。じつにまずい。図鑑には「食」と記されるキノコだが、「採ったけど、まずいから結局捨てた」という話をよく聞く。だったら、採らないことだ。そのひと言を言いたいための試食だった。おそらく、ヨーロッパで食されているジャイアント・パフボールと混同されているせいだろう。図鑑に「食」とあるせいで、どれだけたくさんのオニフスベが採られ、家庭のごみ箱に捨てられたか想像に難くない。
私はなんとなくオニフスベが好きなのである。子供に見つかると必ずボールのように蹴飛ばされるきのこ。隠れても目立ち過ぎる間抜けなきのこ。写真のオニフスベを抜いて、カメラを向けたら、我が家の愛犬がオニフスベに向かってわんわん吠えた。やはりボールでないことは分かるらしい。犬にも不気味な存在感の伝わる奇妙なきのこなのである。
だから、食いもしないのに採ってほしくないと思う。それは、「野に咲くサクラソウが好きだ。だから採るな」と言うのと同じで、たんなる自分のエゴイズムである。「鯨を捕るな」というのとも同じだと思う。まったくの独りよがりのエゴイズムだけど、このキノコは絶対にまずいので、そっとしておいてほしいと思う。

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