ホシアンズタケ


98.06.14 日光にて

写真のように柄に赤い水滴が付くこともこのキノコの特徴の一つである。


ホシアンズタケの成菌(径4〜6cm)

「アンズの香り」という表現が適切かどうかは判断しかねるが、清楚な肌色に似つかわしい、すがすがしい香りを持っている。
ホシアンズタケをつかんだ後、手のひらに残り香が付いた。石鹸に使ってもいいような匂いだと思った。食い物の香りには向かないような気もしたが、さにあらず。入浴剤に使われる柚子が料理にも重宝されるごとく、味覚をも刺激する匂いである。
後学のために豆腐の吸い物に入れて試食してみた。手際よく作った吸い物ではわずかに薄桃色が残り、見た目にもすがすがしい。ただし、鍋物などで煮込んでしまうと色が消えてしまうようだ。
口に運ぶとき、柑橘系の果実のような香りがかすかに鼻腔を這う。柄は細く短いので、食べるのはほとんど傘の部分である。しっかりした歯あたりがあり、噛むほどにぬめりが口に広がる。また、その歯触り舌触りにはフカヒレのようなじゃりじゃりした妙味が少しあり、ぬめりと相まって独特の風味をかもし出す。
強いて似た食感のキノコを上げれば、歯あたりとめめりの点でナメコに少しばかり似ているし、歯触り舌触りはむしろムキタケに似ているような気がする。が、香りはそのどちらともまったく似ていない。譬えて言うなら、ナメコやムキタケを「山里の味」とすれば、ホシアンズタケはちょっとエキセントリックな「都の味」といえようか。観光地の高級旅館がもったいぶった能書きを付けて献立に出せるような、品のよい風味を持ったおいしいキノコだと思った。
図鑑によっては「苦い」とか「辛く苦い」といった記述がみられるが、加熱調理すればまったく苦くも辛くもない。この日はキノコ仲間6人で観察に行き、ホシアンズを採取して食べたのは私を含めて5人。揃って「苦くも辛くもない」という感想だ。ただし、美味い不味いの評価は人それぞれで、中には「歯切れのいいナメクジを食べているような感触」と評する人もいた。理解できる表現ではある。


ひだ


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