ドクツルタケ
Amanita virosa


22 August, 2004 富士山で

猛毒と裏腹の優美な姿。Destroying Angel(英語名)とはうまく名付けたものだ。
テングタケ属には毒きのこが多いが、なかでもドクツルタケ、タマゴテングタケ、シロタマゴテングタケの3種は致死的な毒性をもち、「猛毒御三家」といわれている。このうち真っ白なのはドクツルとシロタマゴである。
水酸化カリウム(KOH) 3%液を傘に付けて黄変するのがドクツルタケで、シロタマゴテングタケは黄変しない、といった記述も図鑑には見られるが、両者の区別はむずかしく、どちらともつかないタイプもしばしば目にする。
さて、ドクツルタケは「1本食ったら死ぬ」と言われる。シロタマゴテングタケも、その他の○○ドクツルタケも、みんな「殺しのエンジェル」である。いったいどれほどの猛毒なのだろうか。こればかりは試してみるわけにはいかないが、いちばん知りたいことである。
ニフティサーブを使って朝日新聞のデータベースを検索し、ドクツルタケ(あるいはシロタマゴテングタケ)による中毒例を検索してみた。
以下に紹介する山梨、愛知、兵庫、静岡で起こった4件の中毒事故は朝日新聞掲載記事からの引用である。

中毒例1

きのこ中毒で作業員死亡 今年、全国初 [山梨] (91.10.11)

山梨県厚生部に11日入った連絡によると、先月24日、同県北巨摩郡小淵沢町内で猛毒のきのこ「ドクツルタケ」を食べ、下痢や吐き気などの食中毒症状を起こして甲府市内の病院に収容されていた千葉県出身の建設作業員(19)が9日夜、肝不全で死亡した。厚生省によると、毒きのこによる死者は今年初めて。
県厚生部によると、重症の食中毒症状で入院していたのは計4人で、そのうち3人は10日までに退院した。しかし、19歳の少年の作業員は、吐き気などの症状が激しくなり、小淵沢町内の病院から甲府市内の病院に転院、治療を受けていたが回復しなかった。
少年らは、作業現場近くの林の中でドクツルタケを見つけ、宿舎で牛肉やネギなどと一緒に油いためにして食べた。

中毒例2

毒キノコ中毒?男児死亡 留学生一家、両親も重体 [名古屋] (93.08.11)

名古屋市衛生局と昭和署に11日入った連絡によると、同市千種区内に住む中国からの名古屋大留学生(35)の家族3人が毒キノコを食べたためとみられる中毒症状を起こし、同市昭和区内の病院に入院した。このうち長男(4つ)が中毒で死亡し、留学生と妻(33)の2人も重体となっている。厚生省によると、キノコが原因とみられる食中毒は今年全国で五件発生、死者が出たのは初めて。
同衛生局によると、この一家は6日、自分たちで採って来たキノコを夕食で、スープやたきこみご飯にして食べた。7日午前零時ごろから、吐き気や下痢などの中毒症状が出て、昭和区内の病院に入院したが、9日午前5時ごろ、長男が死亡した。両親は同区内の名古屋大学病院に転院した。赤血球が壊れる溶血や肝臓障害も起こしているという。
昭和保健所などで原因を調べているが、キノコは名古屋市内の東山植物園で採取したものという。
●長雨で好生長
関西菌類談話会会員でキノコに詳しい愛知県立豊田西高職員山田弘さんによると、症状などからみて食べたのはテングタケ科のドクツルタケか、シロタマゴテングタケの可能性が大きいという。これらのキノコは白っぽく、柄の部分にツバのようなものが付いているのが特徴。猛毒のアマニチンという物質が含まれており、半日から一日後に、嘔吐(おうと)、下痢、肝障害などコレラのような症状が出るという。
今年は長雨による冷夏でキノコの生育がよく、毒キノコも多いことから注意して欲しいと、山田さんは話している。

原因キノコの種類ほぼ特定 中国人留学生一家の食中毒 [名古屋] (93.08.14)

名古屋市千種区の中国人留学生一家の食中毒事件で、同市衛生局は13日、留学生宅で見つかった食べ残しのキノコの検査結果などから、一家は市内の東山植物園で採取したドクツルタケかシロタマゴテングタケのどちらかを食べたという見方を明らかにした。

中毒例3

毒キノコ食べ重体 加古川の男性 [兵庫] (93.10.21)

加古川保健所に19日午前、神鋼加古川病院(加古川市平岡町)から「入院中の男性に、キノコによる食中毒の疑いがある」と通報があった。入院しているのは加古川市内の会社員(61)で、意識不明の重体となっている。同保健所は、毒キノコによる食中毒と断定した。
同保健所によると、会社員が食べたのはテングタケ科の「ドクツルタケ」とみられ、肝臓、腎臓に障害をもたらす猛毒がある。13日、三木市内の山中で他の2種類のキノコと一緒に採取して自宅に持ち帰り、焼いて食べたところ、翌朝になって下痢や腹痛など訴えて入院し、18日に容体が急変したという。
県内でキノコによる食中毒が発生したのは、過去5年間で3件だという。

中毒例4

富士山ろくで毒キノコ異常発生 御殿場の男性1人が入院 [静岡] (96.07.25)

御殿場市の男性(64)が猛毒のシロタマゴテングタケを食べて食中毒症状を起こし、入院していることが、24日、分かった。県内では2年ぶりの毒キノコによる食中毒で、しかも「秋以外にキノコの食中毒が起こるのはほとんど例がない」(県食品衛生課)。今年は、富士山ろくで毒キノコが季節外れに大量発生しており、同課と御殿場保健所は注意を呼びかけている。
同保健所によると、男性は16日夜と17日朝の二回、小山町用沢の山林内で採ったシロタマゴテングタケをみそ汁にして食べ、17日夜から吐き気が起き、2、3日後から尿が出なくなったという。現在、沼津市内の病院に入院し、人工透析などの治療を受けている。
富士山ろくのキノコに詳しい小山町の富士山須走口五合目、山小屋「東富士山荘」の米山千晴さんによると、シロタマゴテングタケに限らず、最近は、猛毒のドクツルタケやミヤマドクツルタケも例年の倍以上は発生しているという。
米山さんは「昨年秋に雨が少なく発生できなかったものが、最近の雨や霧で一斉に発生したのだろう。しかし、これらは明らかに危険な猛毒キノコと分かり、食用と間違えることはほとんどないはず」と話している。
同保健所と県食品衛生課によると、シロタマゴテングタケによる食中毒は、県内では過去25年間で初めて。また、シロタマゴテングタケは、本来なら夏の終わりから秋にかけて発生する。
県内での毒キノコによる食中毒は9、10月に多く、シイタケやヒラタケに間違えやすい、ツキヨタケによるものがほとんど。今回の異常発生と食中毒に、御殿場保健所は「今年は特に注意が必要。自信のないキノコには手を出さず、よく知っている食用だけを食べるように」と注意を呼びかけている。

以上の新聞記事から推測するに、ドクツルタケもシロタマゴテングタケも1本程度で必ず死に至るものでもないようだが、もし病院で手当を受けなければ死者はもっと増えていたかもしれない。非常に恐ろしいキノコである。ただし、手で触ったくらいで体内に毒が入るわけではないので、キノコ狩り初心者の方はじっくりと手にとって観察してみることをお勧めする。ツボとツバはほとんどのテングタケ属に共通の特徴だが、ツボとツバのある「白いキノコ」だけは絶対に食べないこと。食おうなんて思わなければ、十分鑑賞に値するキノコである。

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