ベニイグチ
Heimiella japonica Hongo


15 September, 1999 福島県南郷村で

去年までイグチにはあまり興味がなくて、名前が分からなくても無視していのだが、ここまできれいだと無視もできない。こんなに深みのある赤い傘を持つ中型菌はめったにない、というか他に思い浮かばない。柄には網目模様があり、触ってみると網目のざらつきがよくわかる。
これは切っても変色しなかったが、かすかに青変することもあるという。仙台あたりで今夏はたくさん出たと聞くから、珍しいきのこではないようだ。
隣の引き立て役はヒビワレシロハツかな? にしては小ぶりすぎるかなー。正体不明だけど、きみに助演男優賞を贈りたい。
(追記)
この種は Heimiella (ベニイグチ属)に属する。ところが、先日、イタリアの読者からメールがあり、「キノコの本は何冊も持っているが、Heimiella という属は載っていない。どういう属なのか?」と聞かれた。そこで、海外の文献に詳しい佐野悦三氏(千葉菌類談話会)にメールで問い合わせたところ、次のような返信をいただいたので、引用させていただく。

「Dictionary of The Fungi 8th edition」を引くと、Heimiella Boedijn (1951) = Boletellus (Xerocom.) fide Singer (1946), Corner (1970), Pegler & Young (1981) と書いてあります。Boedijn という人が1951年に作った属名で、Boletellus ないし Xerocomus のシノニムで、Singer (1946), Corner (1970), Pegler & Young (1981) が、それぞれの年に書かれた論文で使ったようです。
(中略)
Singer の代表作である「Agaricales in Modern Taxnomy 4th ed.」には、Boletaceae の分類を大きく変えたためか、Heimiella の名は出てこないようですが、同書 3rd edition (1975) 749ページに、Boletellus のシノニムの一つとして出ています。
Corner (1970) の論文のすぐ後に出版された Corner著「Boletus in Malaysia」(1972)には、Heimiella の属名が採用されており、66ページから76ページにかけて5種が記載されています。ただ、6ページには、Heimiella の属名を採用するに当たり非常に躊躇したが、中間の形態を示すものがないので勇気をふるってこの属名を採用したと書いてあります。
なお、 Dictionary of The Fungi 4th edition 1954 によれば、Heimiella Boedijn (1951) という属は、Boletus retisporus Pat. & Baker という種が基準になっているそうです。

という返信内容であった。Heimiella japonica の命名者である本郷次雄博士は、Singer にならってこの種を Heimiella 属としたようである。ところが、当の Singer が Heimiella の属名を使わなくなり、Boletellus (キクバナイグチ属)に含めてしまった。日本の図鑑に載っているのに、ヨーロッパの図鑑に載っていないのは、そうした経緯も関係しているのだろう。ただ、この属の分布の中心は東南アジアということなので、ヨーロッパでは無縁であっても、日本では(たぶんマレーシアでも) Heimiella の属名が生きているわけである。(記・00/02/19)

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